「子供へのまなざし」 佐々木正美

この本は子供のことを書きながら、一方でその主な相手である大人の気持ちをよくあらわした本だと思った。
ただ、こういう本を読んで理解できるということと、それを実行出来るかというのは直接結びつかないわけで、そこにノウハウ本、ハウツー本の難しさがあると思う。
この本も同じ。わかるけど..というところがやっぱりある。それでも他の本よりはたくさん、納得できたし、自分の気持ちを突いてるなと思うところがあった。

細かくあげると色々あるのだけれど、この本から自分自身とも照らして感じた一番の指摘は、
「現代人は他人と信頼関係を築きにくくなっており、それが多くの事象の原因となっている」
ということ。築きにくくというより、そういうことを避けているという指摘。

人はひとりでは生きられない。だから孤独は自分の存在を揺るがされることに等しい。その存在の意味は周りの人との関係によって確かめられる。もしある人でそれが確かめられなければ、他の人を求めたり、ものに執着することで代替したりする。

そしてその一方で人との関係を煩わしいと感じ、そういった関係から解放されることで安らぎを感じるというような状態になってしまった。
もちろん心の底にあるものは変わらないのに、表面的なちょっとしたわずらわしさを避けてしまう。
そういう努力をしなくなった。わがままになった。
それは主に、避けても何とかやっていける時代だから。そして、けれども、何かあった時のもろさを内包している。

わずらわしいと感じる理由は人との間の気遣い。人にものを頼みにくいとか、である。
ではなぜ頼みにくいかというと、相手の嫌がる気持ちが浮かぶからである。それは相手の善意を期待しない、信用しないということであり、そう想像させるのは逆に、自分のなかにそういう気持ちがあるということである。

ではその気持ちのベースにあるのは何かというと、自分自身の気持ちが満たされていること。
自分を好きと感じること。そうすることで喜びや悲しみを誰かと共有することが出来るようになる。
自分自身に不満や不安があって、人に気持ちを投げかけるというのは難しい。

そういうベースがあって、たくさんの人と接するなかで自分の社会のなかでのポジションを修正しながら作り上げていく、というのが大人になっていくというプロセス。

それが希薄になっている現代の人はとてももろくなっている。たくさんの関係のなかで自分の位置が決まっていればいいが、それが少ないので、一本の糸が揺れただけで、自分の位置を非常に不安定にさせてしまう。

子供の事件では親の問題が指摘されるけど、ほとんどのことはそこでおしまい。
前の本でもそうであったように、子供のケアばかりでなく、親の問題を解決しなければ子供の問題は解決しない。
それでも子供のケアが従来よりは配慮されるようになっただけでも進歩ではあるが。

この本のことは続く...

子どもへのまなざし (福音館の単行本)

子どもへのまなざし (福音館の単行本)