「肩ごしの恋人」唯川 恵

彼女の小説は飽きてしまったのだけど、直木賞をとったこの小説はどうかな、
と読んでみました。

書き慣れた人が手堅くまとめました、という感じでしょうか。
賞というとそれまでのスタイルからワンステップアップした
とか、集大成的な書き方、といようなものを期待して
しまうのですが、この場合は、「あなたの番が順当にきました」
という感じ。

僕が覚えてる彼女の昔の小説と少し違うかな、と思った点は、
恋愛をしている状況を書いてあるというより「恋愛とは」
をより登場人物に言わせてると感じた点。
読み手に取り方をまかせるのではなく、積極的に考えを
言わせてる気がした。
(僕の表現がちょっとあやふやな言い方は、その昔の
小説の印象があいまだから...)

それからおかしな恋愛を書くようになったこと?
キレイパターンばかりでなく、情けないもの、ゲイが出てきたり。
そのあたりは(そうそう、そんなキレイなものばかりじゃないよ)
と思いながら読んだ。
キレイじゃないっていうのはどってことないという感じに近い。
例えばドロドロの三角関係だって、それはそれで読み手にとっては
刺激的。で、刺激=演出されたもの=キレイパターン という意味で
キレイを僕は使ってます。

祟という15の男の子の家出の原因は幼稚で情けない。そう
なんだけど、周りの人に向ける気遣いや言葉には周りの一回りも
大人の心に響くものがあったりするとか、るり子の女性としての
自分へのこだわりの強さは、生まれながらに女性でしたという
人では誰もかなわず、勝負になりそうなのはオカマさんであって、
そのこだわりが彼女を逆に惹きつけてしまうとか、そういう
どろくさいところとの両面があるってところ。

萌という人物がごくごく普通の女性なんでしょうね。
強いようだけど、心配なところもある、と描かれてる。
神崎との関係をもっと描いたとしたら、それはそれまでの彼女の
小説の雰囲気の延長だったかも。
その従来の感じと、メリハリの効いたとりまきのコントラストが、
さっきいったキレイばっかりじゃないんだよ、の印象になってる。

いいわけになるようなことを手に持ちながら行動してる感じの
僕にとって、全部を使い切って物事にあたってる るり子は
うらやましい。
うらやましいけど、これはもって生まれたというか、育んできた
生き方の違いだからどうしようもないなぁ..

肩ごしの恋人

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